1999年、アンディ・ミッチャムは別名のサー・ドリューとしてキングサイズ・レコーズと契約。ここで、 2 人は再び活動をともにする。チキン・リップスの誕生。
チキン・リップス初期の一連のシングル、「 Big Legs 」「 Git Back 」「 Shoe Beast 」は、ライブとエレクトロニック・サウンドを組み合わせることで、誰よりも早くダンスミュージックの “ ネクスト ” を予感させていたといえる。ピート・トンからジェームス・ラヴェルまで、多くの DJ 達の支持を得ており、 2000 年に 1st アルバム『 Echoman 』がリリースされる頃には、チキン・リップスはシーンの方向性を左右する存在となっていた。
2枚目のスタジオ・アルバム『 Extended Play 』は、彼らの存在感を決定づける革新的なサウンドを内包していた。ゴージャスなディスコとダブ・ヴァイブのコンビネーションによる新しいサウンドは、 DJ をはじめとする多くの音楽ファン(ダンスミュージックファンとはあえて言うまい)に支持され、 80'S エレクトロ・ディスコの復活を印象づけた。
ディーンとアンディは、チキン・リップス以外での活動も目覚ましい。彼らがリミックスしたアーティストとして少しばかり名前をあげると、 Tiga 、 The Kills 、モーリス・フルトン、スーパーグラス、モーチーバー、ハード・ファイ、ジャスティン・ローバートソン、そしてプレイグループ。
そして、チキン・リップスのコラボレーターであり盟友である DJ 、スティービー・フェラ・コティの存在。週末ごとに、スティービーはチキン・リップスのサウンドを世界中のオーディエンスに届け、そこで得たバイブをチキン・リップスにフィードバックさせる。
ディーンとアンディは、各々のソロ・プロジェクトでも大きな成果を上げている。アンディはエンペラー・マシーン、ディーンはホワイト・ライト・サーカス。
本作『 Making Faces 』から、所属レーベルをアドリフト・レコーズに移籍し、スペインをベースに活動するジョニー・スペンサーをヴォーカリストとしてフィーチャーすることになる。
ジョニーはリリックについて「日記みたいなもの。隠されたものなどない」と語っている。
アルバム 1 曲目の「 Sweetcow 」を聴いたものは、そこから何を連想するだろう。トム・トム・クラブ? 『 Let's Dance 』の頃のデヴィッド・ボウイ? 「 83 年に3週だけ全米トップ 10 入りした曲」と紹介されたらうっかり騙されてしまいそうな見事なまでの 80'S 感の再現? しかし、よく聴いてみれば音のひとつひとつがディフォルメされているが、構成やアレンジは極めてシンプルなものであり、ヴォーカルも含め、印象的なリフの集合体であるこの楽曲は完全にダンスミュージックのイディオムでつくられていることがわかるだろう。
つまり、まぎれもなく 2006 年のサウンドである『 Making Faces 』は、同時に 80 年代的でもある。 NY 的ではあるが、 UK 的でもあり、それはヨーロッパ的でも、東京的でもある。そして、ロックであり、ダンスミュージックであり、アンダーグラウンドであり、ポップである、ということだ。
日本盤に収録された「 White Dwarf 」のリミックスが、ロンドンのアンダーグラウンド・ハウスシーンで薄暗く輝く FREAKS( ルーク・ソロモン ) によるものと、 DJ しての名声を得ながらも次々とスタイルを変えていくジョシュ・ウインクの 2 人によるものだというのも示唆的だ。
ニュー/オールド、ポップ/アンダーグラウンドといった対比はもはや成り立たないことをチキン・リップスは知っている。そして、もはやジャンルや地域性だけではなく、時代性までも境目がなくなった現在を、チキン・リップスは教えてくれる。こうして音楽は、やはり時代の先端を行く。
honeyee.com 編集長 鈴木哲也 (2006年 2月 ) |